楽しい日常日誌 ~詩的否私的日常日記 ~

隠れblogにするつもりでしたが、<私的日常日記>にしました。でも、ネットの私的って,一体なんだ!? 
by HIROKO_OZAKI1
カテゴリ
全体
趣味
短歌と短歌論
古典
読書
暮らし
おでかけ
話題
未分類
以前の記事
フォロー中のブログ
メモ帳
http://www.itoen.co.jp/new-haiku/18/kasatoku03.php

12月に読んだ雪の歌集~①『ゆきふる』小川佳世子

2015年12月、タイトルに<雪>を含む歌集を2冊読む。一冊目は、

『ゆきふる』小川佳世子(ながらみ書房 現代女性歌人叢書4)

最近つくられた歌をまとめたもの、この期間の作者の日常の中には、病と仕事、恋、家族、震災が存在する。

 絶食で検査を待って昼を過ぎまだ当事者感覚が来ない
 カーテンを開けて朝ごと来る人を待つ平安の宮廷のよう
 穀物のために降る雨眺めつつやわらかごはんをゆっくり食べる

<穀物><雨><ごはん>という自然の循環の中に作者も居るという現実、そのリアリティの中でも作者はどこか自分を客観視している。日々訪問を待つ時間を平安の宮廷にたぐえるとは。読者として、闘病する作者にひやひやしながらも、甘やかな情景をほのかに思い浮かべる。

歌集にいくつか見られる桜の歌、その花びらは、まるで雪のようにはかなく散っていくイメージで現れる。それはそのまま作者の生命であり魂の実感であるだろう。

 さくときもさかないときもさくらの木 パジャマの時のほんとうの恋
 すべてから抜ける感じを思いおりひとひら落ちて消えし花びら
 ならばどうすればよいのか雨に濡れ咲き切らぬまま散りゆく桜
 ゆらぎつつ桜並木に目をあげず昼の電車にさびしい乗客
 一年で忘れてしまうそのひとつこの木も桜の木であったのか
 私には桜は御室桜やしソメイヨシノはよそさんやなあ
 違う国みたいになりぬ花終わり緑の色の多すぎる庭
 さくらではないそうなので春まではここに居なくてよいのか、そうか

作者は、入院中の医師への思いを<ほんとうの恋>と言う。
このようなブログの感想の中で言葉にしてよいかわからぬほど、つらそうである。
つらそうな歌、と読んでおきながら不謹慎きわまりないのだが、それでも私は、ちょっと前の耽美的な映画『外科室』を思い出したりしている。表現がさきわう国、表徴の王国宇に住んでいる限り、仕方ないことなのだろうと思う。
三首目、句跨りがうまく機能する。六首目、ソメイヨシノとよそさんの歌の響き、京言葉の使い方がきいている。
そして、昼の電車の乗客は桜並木に目もくれぬのである。本当になんともさびしいが、では夜の電車ではどうなのか、意外と皆桜を気にしてるかもしれないよ、などと、いろいろ余計なことを考えてしまう。 

 王国の風をひろげるむらぎものこころのゆめのような王国
 王国に土地はなくてもひとびとはいなくなっても王はいるはず
 あたらしい傷をふやしてしまってもわたしのからだ 秋の王国

<傷>というのは、現実の身体の傷である。決して軽微ではない病を作者が抱えることを、読者は歌集からも知ることができる。もちろん現実の作者を知っている我々もそれを念頭に読むのだが、にもかかわらず、これらの歌に、不思議に響き合えるものを感じるのは私だけではないだろう。歌が生まれる背景にある、なにか世界とのかみあわなさというものが、たぶん、共通しているということなのだろう。

 ゆきふるという名前持つ男の子わたしの奥のお座敷にいる

歌集のタイトルの『ゆきふる』は、この作品から来ているようである。
雪降る?ゆく?ふる? 不思議な音である。実在の少年なのだろうか?

他、印象に残った歌を引く。たくさんあるので困るのだけれど。

 火をはなつほかはなかった幽閉の無明の洞はさむすぎたのだ
 なすすべもなくとけてゆくこころかな床に氷は置かれたままで
 親切に連れてゆかれた神社にて凶のみくじをひいたような感じ
 語られて過去はかわると思う時とおくはちすの花ひらく音

 脚韻の下草に露ふりしきり月夜の森に僕はいるから

 憎しみを愛にかえても悲しみはかなしみのままのこる昼月
 なかぞらはいずこですかとぜひ聞いてくださいそこにわたしはいます

 せんせいがすきですとメモ少女よりもらいひとよの夢はかないぬ
 月は一つ影は幾億何億の人の心にひとつ照る月
 負を糧にきてもし勝ってしまったら途方に暮れる広きくさはら
 ほんとうの人はずいぶん遅刻して虚構の人は間に合っていた
 グリーンカードを取得するよと言ったまま何処にいるのかわからない兄

 十三歳でさらわれた子たちに謂わないで「娘時代のたのしさ」なんて
 こんなにも曝されている場所だった投票所前の夏の校庭
 受け容れてはじめて「主体」になるのかと思いぬ受け入れ難きを聞きて
 研究のお役に立ててうれしいと申す主体はわりとブラック
 
[PR]
by HIROKO_OZAKI1 | 2015-12-27 17:20 | 短歌と短歌論
<< 【memo】 On Fame ... 賀川豊彦の詩集  >>


その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧