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月の櫂

詩のグループから名前をひきついだ個人ホームページ「月の櫂」(現在閲覧できません)の作者のブログです
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「石垣島2013」 光森裕樹

 31枚の透明のカード(5cm×7.2cm)に、4.4cm四方のカラー写真と短歌が
印刷されている。スライドか、小型デジタルカメラの画像のイメージである。
 写真、絵、音楽、その他のものと短歌とのコラボレーションは、今ではまったく
珍しくないが、この形は初めてかもしれない。
 そういえば、雑誌の付録のカード(なんか箴言集のようなものだった)や、
チョコレート菓子のおまけのフェアリーのカード、お茶漬けに同封された広重の
浮世絵や西洋画を集めていたことがあった。
どこか懐かしい気がしたのはそのせいもあるのかもしれない。 

 短歌は、歌が描くものをどの程度共有できるかで受け取り方も感動も変わる。
写真によって短歌のイメージが規定されることの長所短所はいろいろあると思うが、
これはこれで、静かにたのしめば良いのだろう。

 ブーゲンビリア葉を咲かせをり才能はただしくきよく無駄遣ひせよ

 みづのなかで聞こえる声は誰の声こぷりと響めばぷこりと返し

 壁掛け時計にみづ満ちてをり此の島が生まれ故郷になることはない

 海への道なめらかに反り海沿ひの道へと変はります 元気です

 嘘を吐くときには旅するごとく吐く日暮れてのちを残る海光

 飛んでゐる蝶こそ止まつてゐますねとたのしげなれば頷いてをり

 雨なかに得る浮力ありいつよりか遠い何処かは此処だと決めて

 島そばにふる島胡椒さりしかりさりと小瓶を頷かせつつ

 うなぞこの砂紋と指紋が一致する祖先が陸にあがつた島で

 小さな箱に大切に収められているのは、2013年の石垣島、豊かで美しい
島の風景である。
歌人本人の姿あるいは多くの石垣への移住者とどの程度オーバーラップさせて
読んでよいかよくわからないのだが、ここには静かに生きることを選んだ人々の
現在が、ひっそりと収められている。
 もちろんこれは作者本人の意図とは別のもので、あくまで読み手である我々の
問題としておきたいのだが、話題になっている、永井佑の「日本の中でたのしく
暮らす」や、堂園昌彦の「ぼくたちはなぜ死ぬのだろう」「通勤するね」という、
遠くに避難することを選ばない、とどまることを選ばざるを得ない多数者たちの
つぶやきのような文言と、あるいは対極のものとして捉えることができる。
(そして私はといえば、その両方に、属している。)

 小さな小さなこの形状は、まことにそれにふさわしいものであるように思えて
きたのである。
 
 手作り、という同じシリーズには、ガラパゴスのものもある。

「石垣島2013」 光森裕樹_a0019168_9403361.jpg


(2014.2.9.レヴューの会)
by HIROKO_OZAKI1 | 2014-02-10 23:17 | 短歌と短歌論
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